物理学が築く未来
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (4) ア (ウ) ㋐「物理学の成果が様々な分野で利用され,未来を築く新しい科学技術の基盤となっていることを理解すること。」。
内容の取扱いは「物理学の発展と科学技術の進展に対する興味を喚起するような成果を取り上げること。」としています。
0. どういうまとまりか
「物理」で学んだ力学・波・電磁気・原子の法則は、いま研究や開発が進んでいる技術の土台になっています。
このノートに新しい公式は出てきません。「この技術は、この科目のどの内容の上に成り立っているか」を結びつけることが目的です。
学習指導要領の解説が挙げている例の中から、この科目の内容で仕組みの入口を説明できるものを選んであります。
| 技術・研究 | 何をするものか | もとになる「物理」の内容 |
|---|---|---|
| 光格子時計 | 非常に精密に時間を測る | エネルギー準位と振動数条件、光の定在波 |
| 量子コンピュータ | これまでの計算機が苦手な問題を解く | 粒子性と波動性(量子論) |
| 電子顕微鏡 | 原子の大きさに近いものまで見分ける | 電子の波動性(物質波) |
| 核融合発電 | 軽い原子核からエネルギーを取り出す | 核融合と質量欠損、ローレンツ力 |
| 加速器 | 粒子を加速して衝突させる。新しい元素や粒子をつくる | 電界による加速、磁界中の円運動、核反応 |
| PET・MRI | 体を傷つけずに内部を調べる | 対消滅と γ 線、磁界と電磁波 |
| ニュートリノの観測 | 星の内部や超新星爆発を調べる | 素粒子、β 崩壊 |
| 重力波の観測 | ブラックホールの合体などを調べる | 光の干渉 |
| 物理探査 | 地下の構造や資源を調べる | 波の反射と屈折、万有引力 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 技術の名前だけでなく、もとになる法則を対で言えるようにする。「PET は対消滅」「重力波の観測は光の干渉」のように覚える
- 同じ法則が、まったく違う分野で使われている。光の干渉は、薄膜の色を説明するだけでなく、宇宙から届く重力波をとらえる装置にも使われている
- 測る技術の進歩が、新しい発見を生む。時間・長さ・エネルギーをより精密に測れるようになるたびに、それまで見えなかった現象が見えてくる
このほか、電子がもつ磁石の性質(スピン)を電気量とあわせて利用するスピントロニクス、原子や分子の大きさの世界を扱うナノテクノロジー、体の動きを力学で調べて医療や福祉に生かすバイオメカニクスなども、物理学を土台にして研究が進んでいます。
宇宙の始まりや、宇宙に大量にあると考えられている正体の分かっていない物質(暗黒物質)の研究も、素粒子と重力の物理学の上に進められています。
1. 原子と光の物理学が支える技術
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ウ)-㋐
電子や光が粒子と波の両方の性質をもつこと、原子のエネルギー準位がとびとびであること。原子の単元で学んだこの 2 つは、測る技術と計算する技術の土台になっています。
光格子時計などの原子時計は、何を時間の基準にしているか? もとになる「物理」の内容は?
原子が吸収・放出する光の振動数。原子のエネルギー準位の差で振動数が決まること(振動数条件)がもとになっている
準位の差は原子の種類で決まっているので、その光の振動数は、いつどこで測っても同じになる。光格子時計は、レーザー光がつくる定在波の中に多数の原子を並べて閉じこめ、一度に測ることで精度を高めている。高さによる時間の進み方のわずかな違い(相対性理論の効果)まで測れるので、標高の差を調べることなどへの応用が期待されている。
量子コンピュータは、「物理」で学んだどんな考え方の上に成り立っているか?
電子や光などのミクロな粒子が、粒子性と波動性をあわせもつという量子論の考え方
ミクロな世界では、「0 か 1 のどちらか」でなく「0 と 1 が重なりあった状態」をつくることができる。これを利用して、多くの場合を同時に扱う計算を目指している。
電子顕微鏡が、光を使う顕微鏡よりも細かいものを見分けられるのはなぜか?
加速した電子の物質波の波長が、可視光線の波長よりもはるかに短いから
波を使って見分けられる細かさは、波長の程度まで。電子は電界で加速するほど運動量が大きくなり、物質波の波長 が短くなる。
2. 原子核と素粒子の物理学が支える技術
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ウ)-㋐
原子核や素粒子の研究は、新しいエネルギー源の開発や医療の検査、宇宙を調べる方法につながっています。
核融合発電は、どんな反応からエネルギーを取り出そうとするものか? エネルギーが出る理由は?
重水素などの軽い原子核どうしを核融合させる。反応後のほうが質量の和が小さく、減った質量のぶんのエネルギーが出る
太陽がエネルギーを生み出しているのと同じ種類の反応である。正の電気で反発しあう原子核どうしを近づけるために、燃料を非常に高温のプラズマ(電子と原子核がばらばらになった気体)にする。プラズマは電気をもつ粒子の集まりなので、磁界から受けるローレンツ力を利用して、容器の壁に触れさせずに閉じこめる。
加速器は、電気をもつ粒子を、何を使って加速し、何を使って進む向きを曲げているか?
電界で加速し、磁界で曲げている
磁界から受けるローレンツ力は、速度に垂直なので、粒子の速さを変えずに向きだけを変える。加速器は、素粒子の研究のほか、材料の分析やがんの治療、新しい元素の合成にも使われている。原子番号 113 のニホニウムは、加速した原子核を別の原子核に当てる核反応によって、日本の加速器でつくられた。
医療の検査に使われる PET(陽電子放射断層撮影)は、どんな現象を利用しているか?
陽電子と電子の対消滅。陽電子を出す放射性同位体をふくむ薬を体に入れ、陽電子が体内の電子と対消滅して出る γ 線を、体の外でとらえる
対消滅では 2 本の γ 線が互いに逆向きに出るので、両方をとらえると、その直線の上に薬があると分かる。これを数多く集めて、薬が集まった場所を画像にする。
ニュートリノを観測すると、光では見えないどんな場所の情報が得られるか? それはなぜか?
太陽の中心部や、超新星爆発の内部の情報。ニュートリノは物質とほとんど反応しないので、内部で生まれたものが、途中でさえぎられずに外へ出てくるから
反応しにくいので、とらえるには非常に大きな検出器が要る。大量の水をためて、ニュートリノがまれに水と反応したときに出る光をとらえる。
3. 波と電磁気の物理学が支える技術
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ウ)-㋐
波の干渉や反射、電流と磁界の関係も、宇宙・地球・人体を調べる技術に使われています。
重力波の観測装置は、空間のごくわずかな伸び縮みを、光のどんな性質を使って測っているか?
光の干渉。レーザー光を 2 つの向きに分け、遠くの鏡で反射させて戻ってきた光を重ねあわせる
重力波が通ると、2 つの道のりの長さがわずかに変わり、重ねあわせた光の明るさが変わる。経路差で明暗が決まるという、ヤングの実験や薄膜の干渉と同じ考え方である。
物理探査で、地下の構造を調べるには、波のどんな性質を利用するか?
波の反射と屈折。人工的に起こした地震波が、地下の地層の境目で反射・屈折して戻ってくるまでの時間を測る
地層の境目では波の速さが変わるので、反射と屈折が起こる。このほか、場所による重力のわずかな違いや、磁気の違いを測る方法もある。
医療の検査に使われる MRI(磁気共鳴画像法)は、体の中の何に、何を当てて調べているか?
強い磁界の中に置いた体の、水素の原子核に、電波を当てる。原子核が吸収して出し直す電波をとらえて、画像にする
強い磁界をつくるために、電気抵抗が 0 になる超伝導の電磁石が使われる。X 線撮影と違って、X 線や γ 線のような放射線を使わない。