標本調査と標本平均の分布
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 数学B (2) 統計的な推測 ア (ア)「標本調査の考え方について理解を深めること」、(エ)「正規分布を用いた区間推定及び仮説検定の方法を理解すること」。
0. どういうまとまりか
調べたい集団全体(母集団)を全部調べられないとき、一部(標本)を取り出して調べ、そこから全体を推し量ります。
推し量るための土台は、「無作為に取り出した標本の平均(標本平均)が、取り出し方によってどうばらつくか」が分かっていることです。
| 母集団 | 標本(大きさ ) | |
|---|---|---|
| 平均 | 母平均 (決まった値) | 標本平均 (取り出すたびに変わる確率変数) |
| 標準偏差 | 母標準偏差 | の標準偏差は |
| 比率 | 母比率 | 標本比率 。標準偏差は |
分かれ目は次の 3 つ。
- 母平均 は 1 つに決まった値、標本平均 は標本ごとに変わる確率変数
- の期待値は母平均と同じ だが、標準偏差は ではなく (標本を大きくするほど小さい)
- が大きければ、母集団の分布の形によらず は近似的に正規分布 に従う
1. 全数調査と標本調査
根拠: 学習指導要領 数学B-(2)-ア-(ア)
対象全体を調べる全数調査は、時間・費用・労力が大きくかかります。調べると製品が壊れる検査(電球の寿命など)では、そもそも全部は調べられません。
そこで、全体の一部を取り出して調べ、全体の性質を推測する標本調査を使います。
全数調査と標本調査の違いは?
全数調査は対象全体をすべて調べる。標本調査は全体から一部を取り出して調べ、全体の性質を推測する
国勢調査は全数調査。テレビの視聴率、製品の抜き取り検査、世論調査は標本調査。
標本調査で、調べたい対象全体と、そこから取り出した一部をそれぞれ何というか?
全体を母集団、取り出した一部を標本という
標本に含まれる要素の個数を標本の大きさ、母集団の要素の個数を母集団の大きさという。
標本を取り出すとき、なぜ無作為に抽出しなければならないか?
取り出し方に偏りがあると、標本が母集団の性質を正しく反映しないから
母集団のどの要素も同じ確率で選ばれるように取り出すことを無作為抽出といい、取り出した標本を無作為標本という。
無作為抽出を実際に行うには、何を使うとよいか?
乱数(乱数さい・乱数表・コンピュータの乱数)
母集団の要素に番号をつけ、乱数で番号を選ぶ。調べる人が「ふつうそうな人」を選ぶと、無意識の偏りが入る。
復元抽出と非復元抽出の違いは?
復元抽出は、1 個取り出すたびに元に戻してから次を取り出す。非復元抽出は、元に戻さずに続けて取り出す
母集団が標本に比べて十分大きければ、非復元抽出でも復元抽出とみなして計算してよい。
2. 母平均と標本平均
根拠: 学習指導要領 数学B-(2)-ア-(エ)
母集団の要素の値(変量)を、母集団から 1 個無作為に取り出したときの確率変数とみると、その分布を母集団分布といいます。
母集団分布の平均を母平均、標準偏差を母標準偏差といいます。
母平均 と母標準偏差 とは何か?
母集団の変量の平均と標準偏差。母集団から 1 個無作為に取り出したときの値 の期待値と標準偏差に等しい
母集団が決まれば 1 つに決まる値。ふつうは分からないので、標本から推測する。
大きさ の無作為標本の値を , , …, とするとき、標本平均 とは? また、それは決まった値か?
。標本を取り出すたびに値が変わる確率変数
母平均 は決まった値、標本平均 は確率変数。この区別が推定・検定の出発点。
3. 標本平均の分布
根拠: 学習指導要領 数学B-(2)-ア-(エ)
母平均 、母標準偏差 の母集団から大きさ の無作為標本を(復元抽出で)取り出すとき、, …, は互いに独立で、どれも母集団分布に従います。
ここから の期待値と標準偏差が決まります。
母平均 、母標準偏差 の母集団から取り出した大きさ の無作為標本について、標本平均 の期待値と標準偏差は?
、
分散は 。平均すると値が中央に寄るので、ばらつきは より小さくなる。
標本の大きさ が大きいとき、標本平均 はどんな分布に従うとみなせるか?
近似的に正規分布
母集団分布が正規分布でなくても成り立つ。母集団分布が正規分布なら、 によらず はちょうど に従う。
標本平均 の標準偏差を半分にするには、標本の大きさ を何倍にすればよいか?
4 倍
。標準偏差は に反比例するので、 を 2 倍にしても半分にはならない。
母平均 50、母標準偏差 10 の母集団から大きさ 100 の無作為標本を取り出す。標本平均 はどんな分布に従うとみなせるか?
正規分布 (期待値 50、標準偏差 1)
。 はほぼ 48 から 52 の範囲( 標準偏差)に、約 95% の確率で収まる。
4. 母比率と標本比率・大数の法則
根拠: 学習指導要領 数学B-(2)-ア-(エ)
母集団の中で、ある性質 A をもつ要素の割合を母比率 、標本の中で A をもつ要素の割合を標本比率 といいます。
A をもつとき 1、もたないとき 0 という変量を考えると、母比率は母平均、標本比率は標本平均の特別な場合になります。
母比率 の母集団から大きさ の無作為標本を取り出す。 が大きいとき、標本比率 はどんな分布に従うとみなせるか?
近似的に正規分布
A をもつ個数 は二項分布 に従い、。、。
大数の法則とは?
標本の大きさ を大きくすると、標本平均 は母平均 に近い値をとる確率が 1 に近づく
の標準偏差 が 0 に近づくため。比率でいえば、標本比率は母比率に近づく。
練習問題
問 1 1、2、3 の数字が 1 つずつ書かれた 3 枚のカードを母集団とする。この母集団から復元抽出で大きさ 2 の標本を取り出すとき、標本平均 の確率分布を求め、 の期待値と分散が 、 に合うことを確かめよ。
は 1、1.5、2、2.5、3 の値を、それぞれ確率 、、、、 でとる。、
方針 母集団が小さいので、標本の取り出し方を全部書き出して、標本平均 の確率分布を作る。その分布から の期待値と分散を定義どおりに計算する。それとは別に、母集団そのものの平均 と分散 を求めて、公式の値と比べる。
- 復元抽出なので、1 回目も 2 回目も 3 通りずつあり、取り出し方は 通り。どれも同様に確からしい。
- 標本平均は 2 回の数字の和を 2 で割ったもの。和が 2 になるのは (1, 1) の 1 通り、和が 3 は (1, 2)、(2, 1) の 2 通り、和が 4 は (1, 3)、(2, 2)、(3, 1) の 3 通り、和が 5 は (2, 3)、(3, 2) の 2 通り、和が 6 は (3, 3) の 1 通り。
- 和を 2 で割ると、 は 1、1.5、2、2.5、3 の値をとり、確率は順に 、、、、。和は で確かめられる。
- 期待値は「値 × 確率」の和。
- 値を 2 乗したものの平均は、
- 分散は「2 乗の平均」−「平均の 2 乗」で、
- 次に母集団を調べる。母平均は 3 枚の数字の平均で、。手順 4 の期待値 2 と一致する。
- 母分散は、母平均 2 からのずれの 2 乗の平均で、
- 標本の大きさは なので、 は 。手順 6 の分散 と一致する。
ここで間違えやすい 復元抽出なので、(1, 1) のように同じカードを 2 回取り出す場合も数える。また、(1, 2) と (2, 1) は別の取り出し方として数える。
問 2 母平均 60、母標準偏差 12 の母集団から大きさ 36 の無作為標本を取り出す。標本平均 が 64 以上になる確率を求めよ。ただし、標準正規分布に従う について とする。
約 0.0228
方針 標本の大きさ は大きいので、標本平均 は近似的に正規分布 に従うとみる。標準化するのは で、割るのは母標準偏差 12 ではなく、 の標準偏差 。64 以上は片側(右側)の確率なので、0.5 から引く。
- の期待値は母平均と同じで、60。
- の標準偏差は なので、
- よって は近似的に に従う。 とおくと、 は近似的に標準正規分布 に従う。
- のとき、。よって は にあたる。
- は、右半分(面積 0.5)から の部分を除いたものなので、
- 正規分布表の値は丸めた値なので、答えは「約 0.0228」。
ここで間違えやすい 母標準偏差の 12 でそのまま割らない。12 は 1 個のデータのばらつきで、36 個の平均のばらつきは 倍、つまり になる。
問 3 ある地域で、ある番組を見た人の割合(母比率)が 0.4 であるとする。この地域から 600 人を無作為に選ぶとき、その番組を見た人の割合(標本比率) が 0.44 以上になる確率を求めよ。ただし、 とする。
約 0.0228
方針 標本の大きさ は大きいので、標本比率 は近似的に正規分布 に従うとみる。標準化するのは で、期待値は母比率 0.4、標準偏差は 。0.44 以上は片側(右側)の確率なので、0.5 から引く。
- の期待値は母比率と同じで、0.4。
- の分散は なので、
- 標準偏差はその正の平方根。 なので、
- よって とおくと、 は近似的に標準正規分布 に従う。
- のとき、。よって は にあたる。
- は、右半分(面積 0.5)から の部分を除いたものなので、
- 確かめ。人数で考えても同じになる。番組を見た人数は二項分布に従い、期待値は 、分散は 、標準偏差は 。割合 0.44 は 人にあたり、 で、同じ になる。
ここで間違えやすい は分散。標準化で割るのは、その平方根の 0.02。
問 4 次の調査は、全数調査と標本調査のどちらが適しているか。
(1) ある工場で作った缶詰の、中身の重さの検査
(2) ある学校で行う健康診断
(3) ある国の全世帯の人数や構成を把握する調査(国勢調査)
(1) ある工場で作った缶詰の、中身の重さの検査
(2) ある学校で行う健康診断
(3) ある国の全世帯の人数や構成を把握する調査(国勢調査)
(1) 標本調査 (2) 全数調査 (3) 全数調査
方針 「全部を調べることができるか」と「全部を調べる必要があるか」の 2 つで分ける。調べると品物が使えなくなる、または手間や費用がかかりすぎるなら標本調査。一つひとつの結果そのものが必要、または全体を正確に把握することが目的なら全数調査。
- (1) は、中身の重さを調べるには缶を開けなければならず、開けた缶は売り物にならない。全部は調べられないので、一部を抜き取る標本調査が適している。
- (2) は、生徒一人ひとりの健康状態を知ることが目的で、調べなかった生徒の結果をほかの生徒から推測しても意味がない。全員を調べる全数調査が適している。
- (3) は、全世帯の正確な把握そのものが目的なので、全数調査が適している(国勢調査は全数調査の代表例)。
ここで間違えやすい 「対象が多いから標本調査」と数だけで決めない。国勢調査のように、対象が多くても全数調査をするものがある。目的で決める。
問 5 母標準偏差 6 の母集団から大きさ の無作為標本を取り出す。標本平均の標準偏差を 0.5 以下にするには、 を少なくともいくつにすればよいか。
144
方針 標本平均の標準偏差は、母標準偏差 を で割った 。これが 0.5 以下になるという条件を不等式にして、 について解く。
- 母標準偏差は 6 なので、条件は
- は正なので、両辺に掛けても不等号の向きは変わらない。
- 両辺を 0.5 で割る。 なので、
- 両辺とも正なので、2 乗しても不等号の向きは変わらない。 なので、
- よって、少なくとも 144 にすればよい。
- 確かめ。大きさが 144 のとき、標準偏差は で、ちょうど条件を満たす。
ここで間違えやすい で止めて 12 と答えない。求めるのは なので、2 乗する。
【発展】非復元抽出のときの標本平均の分散
大きさ の母集団から非復元抽出で大きさ の標本を取り出すと、, …, は独立ではなくなり、
の分散は になる(教科書の範囲外)。
が に比べて十分大きければ はほぼ 1 なので、復元抽出の で計算してよい。
の分散は になる(教科書の範囲外)。
が に比べて十分大きければ はほぼ 1 なので、復元抽出の で計算してよい。
問 1 の母集団で非復元抽出にすると、取り出し方は (1, 2)、(1, 3)、(2, 3) とその逆順の 6 通りで、 は 1.5、2、2.5 を確率 ずつとる。
分散は 。 と一致する。