貿易と国際分業
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「政治・経済」B (1) ア (イ) の「貿易の現状と意義」。国どうしがなぜ貿易をするのか(比較生産費説)、
それでも貿易を制限する理由は何か(保護貿易)、分業がどんな形をとってきたか(垂直的分業・水平的分業・工程間分業)を扱います。
日本の貿易収支は 2026-09-27 に財務省「国際収支の推移」(国際収支総括表・暦年)と突き合わせました。
0. 何を押さえるか
国際分業とは、各国がそれぞれ得意な財の生産に力を集め(特化)、貿易で交換し合うことです。
なぜそれが得になるのかを説明したのが、19 世紀イギリスのリカードの比較生産費説です。
| 考え方 | 唱えた人 | 中身 |
|---|---|---|
| 自由貿易論(比較生産費説) | リカード(イギリス) | 各国が比較優位を持つ財に特化して交換すれば、どの国も得をする |
| 保護貿易論(幼稚産業保護論) | リスト(ドイツ) | 発展の遅れた国は、育ちきっていない産業を関税などで守るべきだ |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- 絶対優位(どちらの財も相手国より少ない費用で作れる)と比較優位(自国の中で見て、相対的に費用が小さい財)は別物。特化の基準は比較優位
- 垂直的分業は先進国の工業製品と発展途上国の一次産品の交換、水平的分業は工業製品どうしの交換
- 関税は輸入品に税をかけること、非関税障壁は数量制限・複雑な基準や手続きなど、税以外で輸入を妨げること
貿易の現状(時点付き。カードの答えにはしていない): 財務省の国際収支統計では、2025 年の日本の貿易収支は 5,677 億円の赤字、
サービス収支は 3 兆 4,431 億円の赤字でした。一方で海外からの利子・配当などの第一次所得収支は 41 兆 8,201 億円の黒字で、
いまの日本は「モノを売って稼ぐ」より「海外への投資から稼ぐ」比重が大きくなっています(くわしくは 為替相場と国際収支)。
1. 比較生産費説
根拠: 学習指導要領 政治・経済-B-(1)-ア-(イ)
リカードの例を、国名を A 国・B 国に置き換えて示します。表の数字は、それぞれの財を 1 単位つくるのに要る労働者の数です。
| 毛織物 1 単位 | ぶどう酒 1 単位 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| A 国 | 100 人 | 120 人 | 220 人 |
| B 国 | 90 人 | 80 人 | 170 人 |
B 国はどちらの財も A 国より少ない人数で作れます(絶対優位)。それでも A 国の中で比べると、毛織物のほうが相対的に安く作れます
(毛織物 1 単位にかかる 100 人の労働は、ぶどう酒なら 1 単位にも届かない 6 分の 5 単位分にしかならない)。B 国の中では、ぶどう酒のほうが相対的に安く作れます。
そこで A 国が 220 人全員で毛織物を、B 国が 170 人全員でぶどう酒を作ると、
毛織物は 220 ÷ 100 = 2.2 単位、ぶどう酒は 170 ÷ 80 = 2.125 単位できます。
特化する前は両国合わせて毛織物 2 単位・ぶどう酒 2 単位だったので、同じ人数のまま両方の生産量が増えます。
これを交換し合えば、両国とも特化前より多く手に入れられる、というのが比較生産費説の結論です。
リカードが比較生産費説を説いた主著は?
『経済学及び課税の原理』(1817 年)
リカードは 19 世紀イギリスの経済学者。穀物の輸入を制限する穀物法に反対し、自由貿易を支持した。
毛織物 1 単位とぶどう酒 1 単位をつくるのに、A 国は 100 人と 120 人、B 国は 90 人と 80 人が要る。比較生産費説に従うと、A 国はどちらの財に特化すべきか?
毛織物
A 国は両方の財で B 国に劣る(絶対劣位)が、国内で比べると毛織物が相対的に安い。B 国はぶどう酒に特化する。
どちらの財も相手国より安く作れる国でも、貿易で得をするのはなぜか。比較生産費説の考え方で答えると?
自国の中で相対的に費用の小さい財(比較優位を持つ財)に特化して交換すれば、世界全体の生産量が増えるから
特化の基準は絶対優位ではなく比較優位。これが「貿易の意義」を説明する理論の中心になる。
ある財を 1 単位つくるために、代わりにあきらめなければならない別の財の量のように、選ばなかった選択肢から得られたはずの利益を何という?
機会費用
比較優位は、機会費用の小さい財を持つこと、と言い換えられる。
2. 自由貿易と保護貿易
根拠: 学習指導要領 政治・経済-B-(1)-ア-(イ)
自由貿易は世界全体の生産を増やしますが、競争に負けた国内の産業では働く人が職を失います。
そのため各国は、関税や数量制限で自国の産業を守ろうとすることがあります。どこまで自由にし、どこを守るかは、国の中でも立場によって考えが分かれます。
リストが、関税などで一時的に保護すべきだとした「まだ育ちきっていない産業」を何という?
幼稚産業
リストは 19 世紀ドイツの経済学者。主著は『政治経済学の国民的体系』。先進国イギリスに追いつくまでの保護を主張した。
関税以外の手段で輸入を妨げるもの(輸入数量制限、複雑な検査基準や手続きなど)をまとめて何という?
非関税障壁
GATT・WTO は関税の引き下げだけでなく、非関税障壁の削減も交渉の対象にしてきた。
特定の品目の輸入が急に増えて国内産業に重大な損害が出るおそれがあるとき、WTO のルールのもとで一時的に認められる輸入制限を何という?
セーフガード(緊急輸入制限)
日本は 2001 年に、ねぎ・生しいたけ・畳表について暫定的に発動したことがある。
外国の企業が、自国での販売価格より不当に安い価格で輸出することを何といい、それに対抗して輸入国がかける関税を何という?
ダンピング(不当廉売)。反ダンピング関税(アンチダンピング関税)
WTO の協定は、国内産業に損害が出ている場合に限って、その差額の範囲で追加の関税をかけることを認めている。
3. 国際分業の型
根拠: 学習指導要領 政治・経済-B-(1)-ア-(イ)
植民地の時代から続いたのは、先進国が工業製品をつくり、発展途上国が原料や食料を輸出する分業でした。
その後、先進国どうしが工業製品を互いに売り買いするようになり、さらに企業が生産の工程そのものを国ごとに分けるようになりました。
先進国が工業製品を、発展途上国が農産物や鉱産物などの一次産品を輸出し合う国際分業を何という?
垂直的分業
一次産品の価格は変動しやすく、工業製品に比べて値上がりしにくいため、途上国に不利になりやすいと指摘されてきた。
先進国どうしが自動車や機械などの工業製品を互いに輸出し合う国際分業を何という?
水平的分業
そのうち同じ産業の製品を輸出入し合う形は、産業内貿易と呼ばれる。
多国籍企業が、本社と海外の子会社・関連会社とのあいだで部品や製品を売り買いすることを何という?
企業内貿易
設計は本国、部品は A 国、組み立ては B 国のように工程を国ごとに分ける工程間分業が進み、企業内貿易の割合が高まった。
輸出品の価格と輸入品の価格の比で、「輸出品 1 単位でどれだけの輸入品が買えるか」を示す指標を何という?
交易条件
輸出物価指数を輸入物価指数で割って求める。輸入する原油などが値上がりすると、交易条件は悪くなる。
工場などの生産拠点が海外へ移り、国内の製造業が縮小して雇用が失われることを何という?
産業の空洞化
日本では 1985 年のプラザ合意後の円高をきっかけに、製造業の海外移転が進んだ。