響きとリズム
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
古典の文章は、意味だけでなく耳で聞いたときの調子でも作られています。
ここでは、調子を作るものを、音の数(五七調・七五調)、形をそろえて並べる対句、同じ語句の繰り返し、音や様子を写す語の 4 つに分けて見ます。
| 調子を作るもの | どこに表れるか | 例 |
|---|---|---|
| 音の数 | 和歌、語り物、浄瑠璃 | 五七調、七五調 |
| 対句 | 漢文、和漢混交文 | 『方丈記』『平家物語』の冒頭 |
| 繰り返し | 和歌、随筆 | 「かつ消えかつ結びて」、前の句の終わりの語を次の句の頭で受ける |
| 音や様子を写す語 | 軍記物語、和歌 | 「ひやうど」、「いささ」「かそけき」 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 五七調か七五調かは、どこで切れるかで決まる。五七で切れれば重く、七五で切れれば流れるようになる。
- 対句は、形が同じで意味が対応する 2 つの句。片方が分かりにくいときは、もう片方から意味を推せる。
- 響きとリズムは、音読して初めて分かる。目で追うだけでは、切れ目も繰り返しも通り過ぎてしまう。
1. 五七調と七五調
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
五七調が二句切れ・四句切れ、七五調が初句切れ・三句切れの調子であることは、「言語文化」のノートで扱いました。ここでは、その調子が歌や文章の印象をどう変えるかを見ます。
『万葉集』の「春過ぎて夏来たるらし白たへの衣干したり天の香具山」(持統天皇)は、五七調と七五調のどちらか? どんな印象になるか?
五七調。「夏来たるらし」(二句)と「衣干したり」(四句)で文が終わり、五七・五七・七と区切れる。
見たままを一つずつ言い切っていくので、重く力強い調子になる。『新古今和歌集』や百人一首の形(「夏来にけらし…衣ほすてふ」)は四句で切れず、なだらかになっている。
和歌の調子は、『万葉集』から『古今和歌集』『新古今和歌集』へと、どう移ったか?
『万葉集』には五七調(二句切れ・四句切れ)が多く、『古今和歌集』以後は七五調(三句切れ)が増え、『新古今和歌集』では初句切れ・三句切れが目立つ。
重く素朴な調子から、流れるように優美な調子へ移ったことになる。
七五調は、和歌のほかにどんな文章に用いられたか? 例を挙げると?
語り物や浄瑠璃など、声に出して聞かせる文章。『平家物語』の冒頭「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」も七音・五音の繰り返しになっている。
近松門左衛門『曽根崎心中』の道行「この世のなごり、夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」も七五調。
2. 対句
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
対句は漢詩文の技法で、漢文訓読の言い回しを取り入れた和漢混交文にもよく表れます。『方丈記』や『平家物語』の冒頭は、対句を重ねることで文章全体にリズムを作っています。
文章の中で、対句はどうやって見つけるか?
長さと組み立てがそろった 2 つの句が並び、同じ位置の語どうしが意味の上で対応している所を探す。
(例)「朝に死に、夕べに生まるる」(方丈記)は、朝と夕べ、死にと生まるるが対応している。
『平家物語』の冒頭「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」には、対句が何組あるか?
2 組。「祇園精舎の…響きあり」と「娑羅双樹の…理をあらはす」、「おごれる人も…夢のごとし」と「たけき者も…塵に同じ」。
鐘の声と花の色、春の夜の夢と風の前の塵が、それぞれ対になっている。
対句の片方の意味が取りにくいとき、どう読めばよいか?
対になっているもう片方の句から、意味を推す。対句は、同じ内容を言い換えるか、反対の内容を並べるかのどちらかであることが多い。
(例)「おごれる人も久しからず」が分かれば、対の「たけき者もつひには滅びぬ」も「勢いの盛んな者も長くは続かない」という同じ方向の内容だと分かる。
和漢混交文に対句が多いのはなぜか?
漢文訓読の言い回しや漢語を取り入れた文体で、漢詩文の技法である対句も一緒に受け継いだから。
漢語(字音で読む語)が多いので、歯切れのよい響きにもなる。
3. 繰り返しと、音や様子を写す語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
同じ語句や同じ音を繰り返すと、そこに調子が生まれ、内容が強く印象に残ります。音や様子をそのまま写す語(擬声語・擬態語)は、場面を目の前に見せる働きをします。
『方丈記』の「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」で、「かつ〜かつ〜」の繰り返しは、どんな効果を持つか?
泡が一方では消え、一方ではできるということが、絶え間なく続いている感じを出す。
同じ語を繰り返すことで、文に調子が生まれ、移り変わりの絶えないことが強く印象づけられる。
『方丈記』の「あるいは露落ちて花残れり。残るといへども朝日に枯れぬ。あるいは花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども夕べを待つことなし。」には、対句のほかに、どんな繰り返しの工夫があるか?
前の文の終わりの語を、次の文の頭で受けている(「残れり。残るといへども」「消えず。消えずといへども」)。
しりとりのように語を連ねることで、文が切れずに次へ流れていく。
『枕草子』の冒頭「春はあけぼの。」「夏は夜。」「秋は夕暮れ。」「冬はつとめて。」という書き方は、どんな調子を作っているか?
述語(「をかし」など)を省いて短く言い切り、同じ形を四季で繰り返すことで、簡潔で歯切れのよい調子を作っている。
省かれた述語は読み手が補う。訳すときは「春はあけぼの(が趣深い)」と補って訳す。
「あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」(柿本人麻呂・百人一首)の上の句は、音の上でどんな工夫があるか?
「の」を 4 回重ねている(あしひきの・山鳥の・尾の・しだり尾の)。
切れ目なく続いていく調子が、「ながながし夜」の長さを音でも感じさせる。
『平家物語』の那須与一の場面「よつぴいてひやうど放つ」「ひいふつとぞ射切つたる」で、音を写している語はどれか? どんな効果があるか?
「ひやう」と「ひいふつ」。矢が飛ぶ音と、矢が扇を射切る音を写した擬声語。
語りを聞く人に、矢の動きをその場で見ているように感じさせる。「よつぴいて」(よく引いて)のような音便も、語りの勢いを作っている。
「わが宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも」(大伴家持・万葉集)で、風の音の印象を作っている語はどれか?
「いささ」(わずかな)と「かそけき」(かすかな)。
音そのものをまねる擬声語ではないが、語の響きによって、竹の葉を鳴らすかすかな風の音を思い起こさせる。
古典の文章を音読すると、黙読では分かりにくい何が分かるか?
句の長さ(七音・五音)、対句の切れ目、同じ語句や音の繰り返しといった、調子を作っている仕組み。
『平家物語』は琵琶法師が語って聞かせたもので、もともと耳で聞くように作られている。