意味がいくつもある形容詞と形容動詞
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
古文の形容詞・形容動詞には、1 つの語がいくつもの訳を持つものが多くあります。
訳を並べて覚えるだけでは、傍線部でどれを選ぶかが決まりません。語のもとの意味(中心の意味)を 1 つ持ち、そこから場面に合わせて訳を出すのが読み方です。
「をかし」「あはれなり」「いみじ」「あやし」などの基本の訳は『言語文化』のノートの「古今異義語」「古文にしかない語」に在るので、ここではその先の語を扱います。
| 型 | 語 | 中心の意味 |
|---|---|---|
| 良い方にも悪い方にもなる | ゆゆし・めざまし・すごし・はづかし | 程度や驚きの強さだけを言い、向きは文脈が決める |
| 場面で訳が分かれる | はしたなし・かたはらいたし・おぼつかなし・むつかし・つれなし | 「半端だ」「そばで見ていられない」などの中心から訳が広がる |
| 今の語に引かれやすい | なまめかし・こころにくし・あからさまなり・いたづらなり | 今の語と形が似ているが、向きや中身が違う |
分かれ目は次の 3 つ。
- 良い意味か悪い意味かは、語ではなく「何について言っているか」で決める。「ゆゆし」「すごし」は、ほめる場面でもけなす場面でも使う。
- だれの気持ちかを先に決める。「かたはらいたし」は、そばで見ている人の気持ちか、見られている自分の気持ちかで訳が変わる。
- 今の語の意味をいったん捨てる。「なまめかし」は色っぽいではなく、「あからさまなり」は露骨だではない。
1. 良い方にも悪い方にもなる語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
程度のはなはだしさや驚きを表す語は、それだけでは良いとも悪いとも言っていません。『言語文化』のノートで扱った「いみじ」「あさまし」と同じ型の語です。
「ゆゆし」「すごし」のように良い意味にも悪い意味にもなる語は、何を見て向きを決めるか?
何について言っているか(主語や、かかっていく語)と、前後にある評価の語を見て決める。
(例文)「ゆゆしき夢」=不吉な夢。「ゆゆしくめでたき舞」=たいそうすばらしい舞。連用形が下の語にかかるときは、「たいそう」と程度だけを訳せばよいことが多い。
古語「ゆゆし」のもとの意味と、そこから広がった意味は?
もとの意味は不吉だ・忌まわしい(神聖なもの、けがれたものに触れてはならないという恐れ)。そこから程度がはなはだしい(良ければ「すばらしい」、悪ければ「ひどい・恐ろしい」)。
美しすぎる子を「ゆゆし」と言うのは、神に魅入られそうで不吉なほどだ、ということ。
古語「めざまし」の 2 つの意味は?
気にくわない・心外だ(悪い方)と、思いのほかすばらしい(良い方)。
「はじめより我はと思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ」(源氏物語・桐壺)は悪い方。目が覚めるほど意外だ、が中心の意味で、多くは身分が下の者に対する感じを言う。
古語「すごし」の意味は?
ぞっとするほど気味が悪い・もの寂しい(悪い方)と、ぞっとするほどすばらしい(良い方)。
(例文)「人げなき山里の、風の音すごし」=ぞっとするほどもの寂しい。背筋が寒くなる感じが中心で、今の「すごい」のように軽いほめ言葉ではない。
古語「はづかし」の、今の「恥ずかしい」とは違う意味は?
(こちらが気後れするほど、相手が)立派だ・すぐれている
(例文)「はづかしき人」=こちらが恥ずかしくなるほど立派な人。自分の気持ち(気が引ける)を言うのか、相手の様子(立派だ)を言うのかを、何にかかるかで決める。
2. 場面で訳が分かれる語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
訳がいくつも並ぶ語は、中心の意味から場面ごとに訳が出ています。だれが、何を、どこから見ているかを決めてから訳を選びます。
古語「はしたなし」の中心の意味と、主な訳は?
中心は中途半端だ・どっちつかずだ。そこからきまりが悪い・体裁が悪い、そっけない・無愛想だ。
枕草子の「はしたなきもの」の段は、ほかの人が呼ばれたのに自分だと思って出て行ったときを挙げる(きまりが悪い)。「なし」は「無い」ではなく、程度がはなはだしいことを表すとされる。
古語「かたはらいたし」は、だれの気持ちかで訳がどう分かれるか?
そばで見ている人の気持ちなら「みっともない・見ていられない」「気の毒だ」。見られている自分の気持ちなら「きまりが悪い・恥ずかしい」。
「傍ら痛し」=そばにいて心が痛む、が中心。(例文)「よくも知らぬことを、人の前にて言ひ続くるは、かたはらいたし」=みっともない。
古語「おぼつかなし」の 3 つの訳は?
はっきりしない・ぼんやりしている、気がかりだ・不安だ、待ち遠しい・会いたい
様子がつかめない、が中心。(例文)「霧深くて、行く先おぼつかなし」=はっきりしない。「都の人のおぼつかなければ、文を遣る」=気がかりなので。
古語「むつかし」の意味は?
不快だ・うっとうしい、わずらわしい・面倒だ、気味が悪い
(例文)「人げなき古き堂は、むつかしく覚ゆ」=気味が悪く思われる。今の「難しい(やさしくない)」の意味は、古文ではふつう「かたし」が表す。
古語「つれなし」の 2 つの意味は?
冷淡だ・薄情だと、平然としている・そしらぬふうだ
「有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし」(古今集・壬生忠岑)。こちらの気持ちに対して何の反応も見せない、が中心の意味。
3. 今の語に引かれやすい語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
今も似た形で使うために、今の意味で読んでしまう語です。ほめる語は、何をほめているのか(若さ・品・奥深さ)まで言い分けます。
古語「なまめかし」の意味は?
若々しくみずみずしい、優美だ・上品だ
「なま」は若く未熟なこと。飾り立てない、しっとりとした美しさをほめる語で、今の「色っぽい」の意味で読まない。
古語「こころにくし」の意味は?
奥ゆかしい・心ひかれる(底が知れず、もっと知りたくなるほどすぐれている)
(例文)「奥の方より、そらだきものの香、こころにくく薫り出づ」=奥ゆかしく香ってくる。「憎し」とあるが、ほめる語である。
古語「あからさまなり」の意味は?
ほんのちょっとの間だ・一時的だ・かりそめだ
「あからさまと思ひしかども、今すでに、五年を経たり」(方丈記)=ほんのしばらくのつもりだったが。今の「露骨だ」ではない。
古語「いたづらなり」の意味は?
無駄だ・役に立たない、むなしい・はかない、暇だ・することがない
「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」(古今集・小野小町)の「いたづらに」は「むなしく」。今の「いたずら(悪ふざけ)」ではない。