青年期の課題とアイデンティティ
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「倫理」A (1) ア (ア) の「個性,感情,認知,発達などに着目して,…様々な人間の心の在り方について理解すること」。
内容の取扱いは、青年期の課題を踏まえて、人間の心の在り方を心理学の考え方も用いて理解するよう求めています。
このノートは、人の一生の発達の中で青年期がどんな時期と呼ばれてきたかと、エリクソンのアイデンティティの考え方を扱います。
0. 何を押さえるか
青年期は、子どもでも大人でもない時期として、何人もの学者がそれぞれの言葉で名づけてきました。
問われるのは「誰が・何と名づけたか」の組です。
| 言葉 | 名づけた人 | 何を言い表したか |
|---|---|---|
| 第二の誕生 | ルソー(『エミール』) | 人間として、また一人の男・女として生まれ直す時期 |
| 疾風怒濤の時代 | ホール | 感情が激しく揺れ動く時期 |
| 心理的離乳 | ホリングワース | 親への心理的な依存から離れて自立していくこと |
| マージナル・マン(境界人) | レヴィン | 子どもの集団にも大人の集団にも属しきれない存在 |
| 心理社会的モラトリアム | エリクソン | 大人としての責任や義務を猶予されている期間 |
| 発達課題 | ハヴィガースト | 各段階で達成すべき課題 |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- 心理的離乳はホリングワース、マージナル・マンはレヴィン(どちらも「中間にいる」感じがして入れ替わりやすい)
- モラトリアムはもとは経済用語(支払い猶予)で、青年期に当てたのはエリクソン
- エリクソンの青年期の課題は「アイデンティティの確立」、その失敗が「アイデンティティの拡散」(孤立は成人期前期の危機)
1. 青年期はどんな時期と呼ばれてきたか
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(ア)
青年期は、身体の急な変化(第二次性徴)とともに始まり、社会の中で自分の居場所を見つけるまで続きます。
近代以降、学校で学ぶ期間が延びたことで、青年期は長くなったといわれます。
「われわれはいわば二度生まれる。一度目は存在するために、二度目は生きるために」と述べ、青年期を「第二の誕生」と呼んだ思想家と、その著作は?
ルソー、『エミール』
一人の少年の成長をたどる形で書かれた教育論。子どもを小さな大人ではなく、固有の時期として見た。
青年期を、感情が激しく揺れ動く「疾風怒濤の時代」と呼んだアメリカの心理学者は?
ホール(G. S. ホール)
もとはドイツの文学運動の名で、それを青年期の心の状態に当てはめた。
青年が親への心理的な依存から離れ、一人の人間として自立していくことを「心理的離乳」と呼んだのは誰か?
ホリングワース
乳児が乳離れするように、青年は心の上で親から離れていく、というたとえ。
子どもの集団にも大人の集団にも属しきれず、不安定な立場にある青年を「マージナル・マン(境界人・周辺人)」と呼んだ心理学者は?
レヴィン
2 つの集団の境界にいるため、情緒が不安定になりやすいとした。
自我にめざめた青年が、親や教師など周囲の大人の権威に反発する時期を何という? 2〜4 歳ごろの自己主張の時期とどう呼び分けるか?
青年期のものが第二反抗期、幼児期のものが第一反抗期
第二反抗期は、自分なりの価値観を作ろうとする自立の過程の一部と見られる。
成人式のように、ある集団の一員として認められるために行われる儀式を何という?
通過儀礼(イニシエーション)
伝統的な社会ではこの儀式を境に子どもから大人になり、青年期にあたる時期がほとんど無かったとされる。
2. エリクソンのアイデンティティ
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(ア)
エリクソンは、人の一生を 8 つの段階に分け、段階ごとに乗り越えるべき心理社会的な危機があるとしました(ライフサイクル論)。
青年期の課題は、「自分とは何者か」という問いに自分なりの答えを持つことです。
「自分は自分であり、過去から現在まで一貫した存在で、社会の中にも自分の居場所がある」という感覚を、エリクソンは何と呼んだ?
アイデンティティ(自我同一性)
自分で感じる連続性と、他者や社会から認められることの両方がそろって成り立つとした。
エリクソンが青年期の危機としたのは、何と何の対立か?
アイデンティティ(同一性)の確立 対 アイデンティティの拡散(同一性の混乱)
拡散した状態では、自分が何をしたいのか、何者なのかが分からなくなり、選択や決断ができなくなる。
エリクソンが、青年が大人としての責任や義務を一時的に猶予され、役割を試しながら自分を探す期間を何と呼んだ?
心理社会的モラトリアム
モラトリアムはもとは経済用語で、災害などのときに借金の支払いを猶予すること。
エリクソンの 8 段階で、乳児期の危機は何と何の対立か?
基本的信頼 対 不信
世話をしてくれる人との関わりの中で、世界や他者は信頼できるという感覚を持てるかどうか。
エリクソンの 8 段階で、青年期のすぐ後、成人期前期の危機は何と何の対立か?
親密性 対 孤立
アイデンティティを確立した人どうしが、自分を失わずに深い関係を結べるかどうか。
エリクソンの 8 段階で、最後の老年期の危機は何と何の対立か?
統合 対 絶望
自分の人生をかけがえのないものとして受け入れられるかどうか。中年期(成人期)の危機は生殖性(世代性)対 停滞。
人が健全に育つために、乳幼児期・児童期・青年期などの各段階で達成すべき課題を「発達課題」として示したアメリカの教育学者は?
ハヴィガースト
青年期の発達課題には、同世代との成熟した関係を結ぶこと、親から情緒的に自立すること、職業を選び準備することなどを挙げた。
3. 現代の青年期
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(ア)
エリクソンの言うモラトリアムは、自分を探すための積極的な猶予でした。
これに対し、日本では、社会に出ることを先延ばしにし、猶予の状態そのものにとどまろうとする若者の姿が指摘されました。
大人になることを先延ばしにし、いつまでも猶予の状態にとどまろうとする現代の若者を「モラトリアム人間」と呼んだ日本の精神分析学者は?
小此木啓吾
エリクソンの本来のモラトリアム(自己探求のための積極的な猶予)とは意味がずれている点が問われる。