近代的自我と日本の哲学
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「倫理」A (2) ア (ア) の「日本の先哲の思想に着目して,我が国の風土や伝統,外来思想の受容などを基に」のうち、明治の後半から昭和にかけての思想を扱います。
西洋の「個人」の考えに触れた日本人が、自分とは何かに悩み(近代的自我の確立)、やがて西洋哲学と東洋の伝統を結び合わせた独自の哲学を生み出していく流れです。
0. 何を押さえるか
文学者は自我の問題に、哲学者は主観と客観の分裂を越える問題に、民俗学者は名もない人々の暮らしに向かいました。
| 人物 | 分野 | キーワード | 主著 |
|---|---|---|---|
| 北村透谷 | 文学 | 内部生命、想世界と実世界 | 『内部生命論』 |
| 夏目漱石 | 文学 | 内発的開化と外発的開化、自己本位、則天去私 | 『現代日本の開化』『私の個人主義』 |
| 森鴎外 | 文学 | 諦念(レジグナチオン) | 『かのように』 |
| 西田幾多郎 | 哲学 | 純粋経験、主客未分、場所、絶対無 | 『善の研究』 |
| 和辻哲郎 | 哲学 | 間柄的存在、人間の学 | 『人間の学としての倫理学』『倫理学』 |
| 柳田国男 | 民俗学 | 常民 | 『遠野物語』 |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- 漱石の「自己本位」はわがままではない。他人の考えを借りず自分の頭で考える態度で、他者の個性も尊重する倫理を伴う(『私の個人主義』)
- 西田の純粋経験は、主観と客観が分かれる前の経験。音楽に聴き入っているときのように、「私が」「何を」と分ける前の状態を真の実在とした
- 和辻は人間を「人」と「間」の両面から捉えた。個人だけでも社会だけでもなく、その間柄の中に人間があるとし、西洋の個人主義的な倫理学を批判した
1. 近代的自我の目覚め — 透谷・漱石・鴎外
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(2)-ア-(ア)
明治の文明開化は、個人として自由に生きることを教えましたが、現実の社会には古い習慣と国家の要求がありました。
その間で自我をどう確立するかに、文学者たちは悩みました。
北村透谷が、人間の内面にある自由で豊かな精神の働きを重んじて呼んだ言葉は?
内部生命
現実の世界(実世界)ではなく、内面の理想の世界(想世界)に自由を求めた。恋愛を自我の確立に欠かせないものとも説いた。
夏目漱石が『現代日本の開化』で、日本の近代化は外からの圧力で押し進められたものだと指摘した。この近代化を何と呼んだか? 西洋の近代化は何と呼ばれたか。
日本 = 外発的開化、西洋 = 内発的開化
内側から自然に展開したのではない日本の開化は、上滑りにならざるをえないと述べた。
夏目漱石が『私の個人主義』で説いた、他人の考えに頼らず、自分の頭で考えて生きる態度を何という?
自己本位
自己の個性を発展させるには、他人の個性も尊重する義務があるとし、倫理的な個人主義を説いた。
夏目漱石が晩年に到達したとされる、小さな自我を捨てて天の大きな道理に従おうとする境地を何という?
則天去私
自己本位から出発した漱石の、晩年の心境を表す言葉とされる。
森鴎外が、社会の要請と自我の要求との矛盾を受け入れ、自分の置かれた立場に身を任せながらも自我を保とうとする態度を何と呼んだか?
諦念(レジグナチオン)
自我を捨てるのではなく、距離を置いて見つめる態度とされる。
2. 日本の哲学 — 西田幾多郎と和辻哲郎
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(2)-ア-(ア)
西洋哲学を本格的に学んだ哲学者たちは、禅などの東洋の伝統をもとに、西洋の考え方そのものを問い直す独自の哲学を築きました。
西田幾多郎が『善の研究』で真の実在とした、主観と客観が分かれる以前の、ありのままの経験を何という?
純粋経験
このような状態を主客未分と呼ぶ。西田自身の参禅の体験が背景にあるとされる。
西田幾多郎が後に、あらゆる有と無の対立を包み込んで成り立たせる究極の場所として説いたものを何という?
絶対無(絶対無の場所)
西田はこの考えを「場所の論理」として展開した。
和辻哲郎が、人間は孤立した個人ではなく、人と人との関係の中で生きる存在であるとして呼んだ言葉は?
間柄的存在
「人間」という語が「人」と「間」からなることに注目した。主著は『人間の学としての倫理学』『倫理学』。
和辻哲郎は、人間を個人としての面と社会としての面から捉えた。倫理とは、その 2 つの面の関係がどうなることだとしたか?
個人は社会を否定して自立し、その個人が再び自己を否定して社会へ帰る、という否定の運動が絶えず働くこと
個人だけ、社会だけの一方に固まると、倫理が失われるとした。
3. 民俗学 — 柳田国男
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(2)-ア-(ア)
文字に残された思想ではなく、名もない人々の伝承や暮らしから日本人の心を探ろうとしたのが民俗学です。
柳田国男が、日本の民俗学の研究対象とした、ごく普通に生活する名もない人々を何と呼んだか?
常民
岩手県遠野に伝わる伝承を記録した『遠野物語』が、日本の民俗学の出発点とされる。
柳田国男が、日本人の固有の信仰として重んじた、死者の霊が近くの山などにとどまって子孫を見守り、やがて祖霊となるとする考えを何という?
祖霊信仰
柳田は、死者の魂は遠くへ行かず、盆や正月に子孫のもとへ帰ってくると考えた(『先祖の話』)。