生命倫理
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「倫理」B (1) ア の「生命,自然,科学技術などと人間との関わりについて倫理的課題を見いだし」。内容の取扱いは、「生命」について、生命科学や医療技術の発達を踏まえ、生命の誕生、老いや病、生と死の問題などを通して、生命の尊厳について考えることを求めています。
臓器移植法の制定と改正の内容は、2026-09-27 に厚生労働省の「改正臓器移植法」のページと、日本臓器移植ネットワークの「臓器移植法」の解説と突き合わせました。
0. 何を押さえるか
医療技術が進んで、これまで自然に任せるしかなかった生命の始まりと終わりに、人が手を加えられるようになりました。
そこで「誰が決めるのか」(患者本人か、医師か)と「何を大切にするのか」(生命そのものか、生命の質か)が問われます。
このノートでは、議論の土台になる概念の定義と制度の中身を押さえます。安楽死や出生前診断のように意見が割れる事柄について、是非は答えにしていません。
| 生命の神聖さ(SOL) | 生命の質(QOL) | |
|---|---|---|
| 重んじるもの | 生命があること自体の尊さ | その人にとっての生活・人生の中身 |
| 延命治療について | 生命を延ばすことに価値を置く | 本人の望む生き方に合うかを問う |
| 積極的安楽死 | 消極的安楽死(尊厳死) | |
|---|---|---|
| 何をするか | 薬物の投与などで死期を早める | 延命のための治療を差し控える・中止する |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- インフォームド・コンセントは「説明を受けたうえでの同意」。医師が決めて患者に従わせるパターナリズムとは逆の考え方
- 臓器移植法の改正(2009 年成立・2010 年全面施行)で変わったのは、本人の意思が不明なときの扱い。改正前は本人の書面による意思表示が必須、改正後は家族の書面による承諾でも提供できる
- ES 細胞は受精卵(胚)を壊して作る、iPS 細胞は体の細胞から作る。倫理上の問題とされた点が違う
1. 自己決定とインフォームド・コンセント
根拠: 学習指導要領 倫理-B-(1)-ア
かつての医療では、患者のためになることは専門家である医師が決める、という考え方が当たり前でした。
これに対し、自分の身体と生命のことは自分で決めるという自己決定権を重んじる考え方が広がりました。
医師が治療の内容・効果・危険性などを十分に説明し、患者がそれを理解したうえで治療に同意することを何という?
インフォームド・コンセント
患者の自己決定権を支える考え方。説明を受けたうえで治療を拒むことも含まれる。
本人のためだという理由で、医師などの専門家が本人の意思を問わずに物事を決めてしまうことを何という?
パターナリズム(父権的温情主義)
「父親が子どものために決める」ことにたとえた言葉。インフォームド・コンセントは、これを見直す考え方として広まった。
生命倫理で、「生命の神聖さ(SOL)」と対比される「生命の質」は、英語の略で何と呼ばれる?
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)
生命があること自体の尊さを重んじる SOL(サンクティティ・オブ・ライフ)に対し、その人の生活や人生の中身を重んじる。
2. 生と死 — 脳死と臓器移植
根拠: 学習指導要領 倫理-B-(1)-ア
人工呼吸器などの医療技術によって、脳の働きが失われても心臓が動き続ける状態が生まれました。
これが生と死の境目をどこに置くかという問いを生み、臓器移植と結びついて議論されてきました。
脳幹を含む脳全体の機能が失われ、回復不可能と判断された状態を何という?
脳死
人工呼吸器によって心臓は動いている。大脳の機能は失われても脳幹が働いていて自発呼吸がある「植物状態」とは区別される。
1997 年に施行され、脳死下での臓器提供を可能にした日本の法律は? 改正前、脳死下の臓器提供に必要とされた要件は?
臓器移植法(臓器の移植に関する法律)。本人の書面による意思表示と、家族の承諾
意思表示が有効とされるのは 15 歳以上だったため、15 歳未満の人からの脳死下の臓器提供はできなかった。
2010 年に全面施行された改正臓器移植法で、本人の臓器提供の意思が不明な場合の扱いはどう変わったか?
家族が書面で承諾すれば、脳死下の臓器提供ができるようになった
これにより、15 歳未満の人からの脳死下の臓器提供も可能になった。親族への優先提供の意思表示は、2010 年 1 月から先に施行された。
3. 生命の誕生 — 生殖医療と生命科学
根拠: 学習指導要領 倫理-B-(1)-ア
生命科学の発達は、子を持つことを助ける生殖医療や、病気の治療に使う再生医療を生みました。
同時に、生命をどこまで人の手で操作してよいのかという問いも生んでいます。
胎児に病気や障害があるかどうかを、妊娠中に調べることを何という? 体外受精でできた受精卵を、子宮に戻す前に調べることを何という?
妊娠中の胎児を調べる = 出生前診断、子宮に戻す前の受精卵を調べる = 着床前診断
どちらも、結果によって命の選別につながりうるとして議論がある。ここでは言葉の区別だけを押さえる。
ES 細胞(胚性幹細胞)について、倫理上の問題とされてきた点は?
作るときに受精卵(胚)を壊すこと
胚を生命の始まりとみなすかどうかが争点になる。体の細胞から作る iPS 細胞は、この点を避けられるとされる。
2006 年に山中伸弥らが作製に成功した、体の細胞に遺伝子を導入して、さまざまな細胞に分化できる能力を持たせた細胞は?
iPS 細胞(人工多能性幹細胞)
2006 年はマウス、翌 2007 年にヒトの iPS 細胞の作製が報告された。山中は 2012 年にノーベル生理学・医学賞を受けた。
1996 年にイギリスで誕生し、体細胞から作られた初めての哺乳類のクローンとして知られる動物は?
クローン羊のドリー
これをきっかけに、人間のクローン作製を禁じる動きが各国で広がった。日本ではクローン技術規制法(2000 年)で、クローン人間を生み出すことを禁じている。
4. 老いや病と、生の終わり
根拠: 学習指導要領 倫理-B-(1)-ア
老いや病に向き合うとき、どこまで治療を続けるかは、本人の価値観に深く関わります。
2026 年 9 月の時点で、日本には安楽死や尊厳死を認める法律はありません。ここでは言葉の定義だけを押さえます。
回復の見込みがない患者について、薬物の投与などで死期を早めることを何という? 延命のための治療を差し控えたり中止したりして、自然な死を迎えさせることを何という?
死期を早める = 積極的安楽死、延命治療を差し控える・中止する = 消極的安楽死(尊厳死)
両者の区別そのものについても議論がある。ここでは一般的な定義として押さえる。
延命治療を望むかどうかなど、自分が意思を表せなくなったときの医療についての希望を、元気なうちに書面で示しておくことを何という?
リヴィング・ウィル(生前の意思表示)
自己決定権を、意思を表せなくなった後まで及ぼそうとするもの。
死が避けられない患者に対し、延命よりも身体の痛みや心の苦しみを和らげることを重んじる医療・ケアを何という? それを行う施設は?
ターミナル・ケア(終末期医療)や緩和ケア。施設はホスピス
患者の QOL を重んじる考え方に立つ。緩和ケアは終末期に限らず、病気の早い段階から行われるものとされる。