推量の助動詞
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
推量の助動詞は数が多く、1 つの語が何通りもの意味を持ちます。何について推し量るか(時・根拠)で整理すると混ざりません。
| 助動詞 | 推し量る対象 | 主な意味 | 訳の例 |
|---|---|---|---|
| む・むず | これからのこと | 推量・意志・勧誘・仮定・婉曲 | 〜だろう・〜しよう |
| らむ | 今、目の前に無いこと | 現在推量・原因推量・伝聞婉曲 | 今ごろ〜ているだろう |
| けむ | 過去のこと | 過去推量・過去の原因推量・過去の伝聞婉曲 | 〜ただろう |
| べし | 確信のある推量 | 推量・意志・可能・当然・命令・適当 | 〜にちがいない・〜べきだ |
| まし | 事実に反すること | 反実仮想・ためらいの意志 | もし〜なら…だろうに |
| めり | 目で見たこと | 推定・婉曲 | 〜ようだ |
| なり | 耳で聞いたこと | 推定・伝聞 | 〜ようだ・〜そうだ |
| らし | はっきりした根拠 | 推定 | 〜らしい |
分かれ目は次の 3 つ。
- 「む」「べし」は主語の人称で意味が決まることが多い(1 人称なら意志、2 人称なら勧誘・適当・命令、3 人称なら推量)。
- 文中にある連体形の「む」は婉曲・仮定(下に体言や助詞が続く)。
- 「めり」は目、「なり」(伝聞推定)は耳、「らし」は根拠。推定の根拠が何かで分かれる。
1. 「む」「むず」
根拠: 学習指導要領 言語文化-(2)-ウ
「む」(「ん」とも書く)と「むず」(「む」+「と」+「す」がつづまった形)は同じ意味を持ちます。
文末にあるときは主語の人称で、文中にあるときは下に続く語で意味を決めます。
推量の助動詞「む」の 5 つの意味は?
推量・意志・勧誘(適当)・仮定・婉曲
「〜だろう」「〜しよう」「〜するのがよい」「もし〜ならば」「〜ような」と訳す。
文末の「む」の意味を、主語の人称で見分けると?
1 人称なら意志、2 人称なら勧誘・適当、3 人称なら推量
「われ行かむ(私は行こう)」「君も行かむ(あなたも行くのがよい)」「雨降らむ(雨が降るだろう)」。
文中にある連体形の「む」(下に体言や助詞が続くもの)の意味は?
婉曲(〜ような)または仮定(もし〜ならば、その)
例:「思はむ子を法師になしたらむこそ心苦しけれ」の「思はむ子」は「かわいく思うような子」(枕草子)。
「名にし負はばいざこと問はむ都鳥」の「む」の意味は?
意志(「さあ尋ねよう」)
主語は詠み手自身(1 人称)。「いざ」があることも手がかり(伊勢物語・東下り)。
2. 「らむ」「けむ」
根拠: 学習指導要領 言語文化-(2)-ウ
「らむ」は今、「けむ」は過去について推し量ります。どちらも、目の前の事実の理由を推し量る使い方(原因推量)が大事です。
「らむ」の基本の意味と訳は?
現在推量「今ごろ〜ているだろう」
目の前に無い、今どこかで起きていることを推し量る。ほかに原因推量(どうして〜のだろう)・伝聞婉曲(〜という・〜ような)。
「しづ心なく花の散るらむ」の「らむ」の意味は?
原因推量「(どうして)〜のだろう」
花が散るのは目の前の事実なので、今ごろの推量ではなく、その理由を推し量っている。「どうして落ち着いた心もなく花が散るのだろう」。
「けむ」の基本の意味と訳は?
過去推量「〜ただろう」
ほかに過去の原因推量(どうして〜たのだろう)・過去の伝聞婉曲(〜たという・〜たような)。
3. 「べし」
根拠: 学習指導要領 言語文化-(2)-ウ
「べし」は、そうなるのが当たり前だという強い確信が芯にあります。そこから 6 つの意味に分かれます。
助動詞「べし」の 6 つの意味は?
推量・意志・可能・当然・命令・適当
「〜にちがいない」「〜しよう」「〜できる」「〜はずだ・〜ねばならない」「〜せよ」「〜するのがよい」。
「家の作りやうは、夏をむねとすべし」の「べし」の意味は?
適当(〜するのがよい)
「家の作り方は、夏を中心に考えるのがよい」(徒然草)。筆者が人に勧めている。
4. 「まし」
根拠: 学習指導要領 言語文化-(2)-ウ
「まし」は、現実とは違うことを仮に想像する助動詞です(反実仮想)。
「もし〜ならば」の部分とセットで出てきます。疑問の語と一緒なら、迷っている気持ちを表します。
反実仮想の「まし」が作る、決まった形を挙げると?
「〜ましかば…まし」「〜せば…まし」「〜未然形+ば…まし」
「もし〜だったら、…だろうに」と訳す。実際はそうでないことを仮に想像する。
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」を訳すと?
「世の中にまったく桜がなかったならば、春の人の心はのどかだっただろうに」
「せば〜まし」の反実仮想。実際は桜があるので、散るのが気になって落ち着かない。
「いかにせまし」のように、疑問の語と一緒に使われる「まし」の意味は?
ためらいの意志「〜しようかしら」
「どうしようかしら」。迷っている気持ちを表す。
5. 推定の「めり」「なり」「らし」
根拠: 学習指導要領 言語文化-(2)-ウ
推定は、何かを根拠にして判断することです。何を根拠にするかで助動詞が変わります。
推定の「めり」と、伝聞推定の「なり」の根拠の違いは?
めり=目で見たこと(視覚)、なり=耳で聞いたこと(聴覚)
「めり」は「〜ように見える」、「なり」は「〜の音がする・〜ようだ」。「なり」は人から聞いた伝聞(〜そうだ)も表す。
「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」の「らし」は、何を根拠に推定しているか?
山に白い衣が干してあること
「けらし」は「けるらし」がつづまった形。白い衣という目に見える根拠から「夏が来たらしい」と推定している。